コロナ第1波における“うつ”リスクを高める勤務・生活状況が判明
「歩数」「勤務時間」「在宅ワーク」との相関関係は産業医学の有力誌にも掲載
京都大学大学院医学研究科社会疫学分野(教授:近藤 尚己)と共同で、AI健康アプリ「カロママ」の利用者を対象に、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う生活様式の変化と健康について研究しています。この度、2020年の緊急事態宣言期間中(※)の勤務状況や生活パターンの変化と「うつリスク」及び「歩数」の関連についての学術論文が、産業医学誌「Occupational and Environmental Medicine」に受理されましたので、お知らせいたします。(※ 2020年4月7日~5月13日)
サマリー
- 緊急事態宣言期間中に「平日に歩数が減少」「勤務時間が増加」した人は、うつリスクが高い。
- 特に「勤務時間が増加」した人は、うつリスクが1.73倍。
- 「在宅ワークへ移行」できた人は、うつリスクが0.83倍と低い。
- 在宅ワークの男性は、約1,500歩/日 マイナスと、歩数が大幅に減少。
論文の概要
1.うつのリスク
勤務時間が増加した人では、うつリスクが1.73倍高い
(グラフ)緊急事態宣言期間の勤務状況・生活習慣の変化に伴ううつリスク(男性:1,150人 女性:1,696人)
2020年4~5月に発出された緊急事態宣言中の、生活習慣の変化とうつリスクの有無について、アンケート調査を行い、勤務状況や生活パターンの変化とうつリスクの関係を明らかにしました。
全体のうつリスクを1としたとき、「平日に歩数が減少」した人は1.22倍、「女性」で1.58倍、「勤務時間が増加」した人は1.73倍、うつのリスクが高い状態でした。一方、「在宅ワークへ移行」できた人では0.83倍と、全体に比べてうつのリスクが低いことが分かりました。
2.勤務状況と歩数の減少
男性の在宅ワークで約1,500歩/日 マイナスと、歩数が大幅減少
(グラフ)緊急事態宣言期間の勤務状況と歩数(男性:1,150人 女性:1,696人)
1日6時間以上仕事をしている方をフルタイム勤務、6時間未満をパートタイム勤務とし、緊急事態宣言前 (2020年1月1日~2月29日)と緊急事態宣言期間中(2020年4月7日~5月13日)の平日の平均歩数を比較しました。
その結果、女性に比べ男性の歩数が減少していました。中でも、在宅ワークに移行した人の歩数の減少幅が大きく、男性で約1,500歩、女性で約1,400歩の減少がみられました。フルタイム勤務では、男性で約1,300歩、女性で約1,000歩の減少でした。
なお、論文には在宅ワークの歩数については記載しておりません。
■共同研究を行った東京大学大学院近藤研究室からのコメント
【京都大学大学院 佐藤 豪竜先生】勤務・生活状況の変化とうつリスクの関連を明らかにした研究はほとんどない
新型コロナウイルスの流行に伴う自粛生活で、うつのリスクが高まることは、すでに多くの研究で指摘されています。しかし、歩数の減少や在宅ワークへの移行がうつリスクとどのように関連しているかは、ほとんど報告されていませんでした。コロナ禍でのこれらの勤務・生活状況の変化とうつリスクの関連を明らかにした研究は、私たちの知る限り世界初です。
今回の私たちの研究では、在宅ワークに移行した人は、出社を続けた人に比べてうつリスクが2割程度低いという相関関係が明らかになりましたが、「在宅ワークをすればうつリスクが下がる」というような因果関係までは必ずしも言えないことに留意が必要です。また、先行研究では、在宅ワークによって座位の時間やスクリーンタイムが増えることが示唆されており、長期的な健康への影響については、今後の研究が待たれます。
昨年の緊急事態宣言と今年の緊急事態宣言とでは、勤務・生活状況への影響が違う人も多いと思われます。ご自身で「カロママ」などの健康アプリを使って、昨年と比較して歩数や運動状況がどのように変化したか見直してみると、面白い発見や改善点が見つかるかもしれません。
◆佐藤 豪竜 先生(公衆衛生学修士)
・京都大学 大学院医学研究科社会疫学分野 研究員
・厚生労働省 課長補佐
・MPH(ハーバード大学)
【京都大学大学院 教授 近藤 尚己先生】 エッセンシャルワーカーには通勤や勤務量の過多で強いストレスか
緊急事態宣言中に仕事時間が増えた方の抑うつリスクが高く、テレワークに移行できた方は抑うつになりにくい、という結果は大変興味深いです。テレワークできない、いわゆるエッセンシャルワーカーと呼ばれる方々などが、通勤が大変だったり勤務量が多いといった理由でストレスフルな状況となっていたのかもしれません。
新型コロナウイルスの蔓延を機会に、働く場を選ばない新しい仕事のスタイルが普及することを期待します。
今回のデータはAI健康アドバイスアプリ「カロママ」利用者のものであり、健康づくりに比較的関心があり、スマホ等を高度に使いこなせる人が多いなどの特徴を持っている可能性があることに留意して解釈すべきでしょう。
◆近藤 尚己 先生(医師・医学博士)
・社会疫学者 ・公衆衛生学研究者
・京都大学 大学院医学研究科 教授(社会疫学分野)
・日本老年学的評価研究機構理事
・日本疫学会代議員
・日本プライマリケア連合学会代議員
※各コメントは発言者個人の意見であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。
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